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Conversation with Ruskin (Ecce Home).jpg

Conversation with Ruskin

Blue Gallery, Brantwood, Coniston
→ 8th August ~ 17rd November 2019
The Ruskin, Lancaster University, Lancaster
→ 23rd January ~ 28th February 2020
Conversation with Ruskin

     2019年は、ジョン・ラスキン生誕200周年に当たる。美術評論家、美術家、文筆家、教育者、思想家、博愛主義者として、ヴィクトリア朝時代のイギリスのみならず世界的に知られた知の巨人。ラスキンが晩年の28年間、終生の住まいとしたイギリス湖水地方を拠点に活動する日本人美術家として、ラファエル前派やアーツ&クラフツ運動、およびナショナル・トラスト運動の思想的基盤を用意したラスキンの芸術論また自然保護思想には興味を抱いていた。ラスキンはまた、オックスフォード大学で最初の美術教授に抜擢され、同大学のラスキン・スクール・オブ・アートを発足したことでも知られる。

  本プロジェクトでは、ジョン・ラスキンの精神性に深く分け入ることを試みた。芸術、自然、人間の精神性の重要性を唱えたラスキンの声は、テクノロジーが進化し続ける現代社会においてより一層大きく響き渡っている。殊に、アーティフィシャル・インテリジェンスの台頭する時代を前に、今こそラスキンが後代に伝えた遺産が再検討されるべきだと、ボクは考える。なぜならそれは、唯物論を基盤に据え、人間の心/魂/霊と呼ばれる概念は単なる脳の電気的・化学的プロセスに過ぎないとみなす時代だからであり、アーティフィシャル・インテリジェンスの到来はその象徴にほかならない。その時、「人間とは何か」という問いとともに、ボクたちは尊厳の危機に直面することになるだろう。

  以上を踏まえて、本プロジェクトの主要な作品としてジョン・ラスキンの肖像画を制作した。この偉大なヴィクトリア朝の思想家を描くに当たり、ボクは二つの同一肖像を平行軸にオーバーラップさせた複視画として完成させることを構想した。同一肖像間の距離を綿密に計算して丹念に描き上げることで、鑑賞者に錯視を促し、あたかも単一の肖像画像がサポートから浮上して見えるような効果を狙った。脳の錯視効果を狙うという、一見逆説的な試みだが、それを通して可視・不可視、物質・霊魂といった、人間のみが持つ抽象概念の間にある隔たりについて問いただしてみたいと考えた。こうして、人間の心/魂/霊は存在するのか、あるいはそれは単なる人間の脳の電気的・化学的プロセスに過ぎないものなのかという問いかけを俎上に載せることを試みた。それはまた、ラスキンの信仰上の精神的葛藤も映し出している。ラスキンを、現代が孕む自然環境および人間の存在論的危機を前に、湖水地方からあまねく世界に呼びかける先見者(いにしえの預言者)として描くことに努めた。そういうわけで、本肖像画を『Conversation with Ruskin (Ecce Homo)』とした。

  この肖像画に合わせて、自然をテーマとした一連の作品も制作した。ラスキンは生前、自然観察から学ぶことを創造性の基礎に据えていた。ラスキン研究の一環として、ランカスター大学のThe Ruskinにてラスキンの手になるドローイングを幾点か観せてもらう機会を得たが、描く対象とした事物や風景はいずれも、その本質を貫き通すような眼差しが見て取れ、非常に印象的だった。彼のドローイングは巧みな美術家の手による作品であるばかりでなく、広範な学術研究の一端を示すもので、その発見は大きなインスピレーションとなった。また、彼の事物に鋭く迫るような描写には、日本の伝統美術の様式との相似が見出されて興味深かった。さらに、そのドローイングから表出するラスキンの眼差しには、日本の伝統美術のうち自然をテーマとした作品が持つ、自然の事物を可能な限りミニマルに構成して描きつつ、大きな思想的枠組みの全体像を視覚化する様式に相通じるものがあることに思い至り、非常に感銘を受けた。それらを踏まえて、ボク自身の湖水地方での日々の暮らしの中に見出される自然に焦点を当て、この固有の地において人と自然とが織り成してきた歴史や暮らしぶりを一連の作品として発表したいと考えた。このシリーズは単なる自然主題の作品に留まらず、個々の作品がラスキンの自然への愛と環境保護への情熱を醸し出し、かつ過去・現在・未来へと連なる時の経過を示す記号論的な意味を内包した作品群となるよう構想した。とまれ、生きとし生けるものへの愛惜と賛歌を声高に謳いつつ、その自然を自らの手で破壊する存在者こそ人間にほかならない。その圧倒的自己矛盾は、第1次産業業革命の荒波に抗ったラスキンの苦悩に比例する。ボクたちは今、第4次産業革命に直面している。

  作品は、ドローイングを除き、すべて日本の墨とアクリルを併用した独自の線描技法を駆使して完成させた。この線描技法は、初期ルネッサンスのフィレンツェ画派が創作の基としたディゼーニョの方法論に着想を得、ヒトの視覚脳の認知プロセスは概ね線的記号として処理されているという現代脳科学的知見をもとに独自に開発したもので、過去10年以上にわたりこの技法の卓越に励んできた。背景は、襖絵や屏風絵に見られる日本の伝統美術様式をインスピレーションとして、すべてアクリル・ゴールドで統一し、上記のコンセプトを強く打ち出した。こうして、ジョン・ラスキンの精神性とその偉業を讃える美術的試みを一連の作品に昇華したつもりである。

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これは英国芸術協議会助成プロジェクト『Conversation with Ruskin』の最終報告書です。詳細は画像をクリックしてください。(ただし、英語のみ)

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