top of page
Nature

Japanese sumi ink & acrylic

Nature

     つてカラヴァッジオは言った、「優れた花の絵を描くことは、自分にとって、人物を描くのと同じぐらい技量のいることだ」。それは、カトリックの反宗教改革の下、聖書主題の芸術作品を聖として「生ける自然(ナトゥーラ・ヴィヴェンテ)」と呼び、花や果実などの主題を「死せる自然(ナトゥーラ・モルタ)」と呼んで貶めた時代にあって、まさに革命的な発言であったはずだ。カラヴァッジオは、人物を描くのと同じほど丹念に籠に盛られた果実を描き、聖と俗の境界を除いてしまったのだから。こうして、彼は静物画という新たなジャンルを拓き、西洋美術を革新したのだった。

 

  ところで、自然のもつ固有のテクスチャ、色彩、多様性、そしてそれらの絶妙な調和を目にするとき、その造形美の妙にはいつも感動を覚える。殊に、絢爛豪華に咲き誇る花よりもむしろ、ボクは様々な葉のかたちを描くことを好む。ところで、日本の伝統美術には、自然を主題としながらもその背後に深甚な意味を盛り込む歴史がある。それは、この世の栄華の虚しさであり、命の儚さの象徴なのだ。それはまさに西洋美術にも見られる『メメント・モリ (死を想え) 』の思想に符合するもので、ことにバロック美術において顕著である。カラヴァッジオがその独特の様式、すなわち美術史家ロベルト・ロンギが定義したルミニスムを確立したのも、この時代であった。落ち葉や草花など自然の事物を丹念に描く行為は、ボクにとってこれら往年の巨匠たちとの対話そのものであり、生命の尊さと儚さ、死すべきものと永遠に存続するもの、そして光と闇についての黙想なのだ。

bottom of page